革新的宇宙利用実証ラボラトリーについて
超小型衛星(特に1辺10cmの立方体(1U)を単位とするCubeSat)の開発が世界中で拡大しています。2000年代初頭に登場したCubeSatは当初学生の教育をメインとしていました。それから20年近くが経った今、平均すると年に200基程度が世界中で打ち上げられており、その目的は、ビジネス(地球画像取得、海事データ収集、気象観測等)、科学観測、深宇宙探査、新規宇宙技術の軌道上実証などへ大きく広がりを見せています。超小型衛星は、低価格や開発の容易さという特性から、これまでは自前で衛星をもつことが難しかった途上国・新興国が宇宙参入を図る格好の入り口ともなっており、これまでに20を超える国が、第一号の衛星としてCubeSatを打ち上げてきました。また、宇宙利用とは縁遠かった企業やNew Spaceと呼ばれるスタートアップ企業が、新規の宇宙利用のアイデアを実証、あるいはビジネスそのものに使用する安価なプラットホームとしてCubeSatを打ち上げています。
従来の宇宙開発利用は、国家が最大の顧客であり、高信頼性を追求した大型の宇宙システムが多用され、民間の宇宙利用もそれらの宇宙システムから派生した高価格・高性能・高信頼度のプラットホームを使用してきました。一方で、超小型衛星は、個々の衛星が失敗するリスクを許容しつつ、安価・短期に衛星がもたらす価値を顧客やユーザに届けることを命題としており、Lean Satelliteとも呼ばれています。
従来型の宇宙開発利用には、金銭的・技術的に高い参入障壁があり、宇宙セクター(探査も含み、宇宙開発利用に係る全ての人々を網羅する)全体の発展を阻害してきました。それがために、アポロ着陸から50年経った今も、人類は月に再び足を踏み入れることすらできていません。超小型衛星は、宇宙開発利用への参入障壁をさげ、宇宙セクターに新たな人材を呼び込む起爆剤となって、「宇宙の裾野」を拡大することができます。新規参入者の斬新な発想が新たな宇宙利用を生み出し、それを実現するための宇宙技術の革新を促します。超小型衛星で生まれた技術革新が従来型の宇宙開発利用にも変革をもたらし、人類の宇宙活動を飛躍的に発展させる可能性があります。
九州工業大学の衛星研究は、宇宙環境技術ラボラトリー(2004年12月〜2020年3月)で行われてきた衛星帯電、宇宙ゴミ、宇宙材料、超小型衛星、国際標準化等の活動を通じて、世界的に認知されてきました。超小型衛星と宇宙利用に舵を切りつつ、これまでの国際的な情報発信活動を継続し世界的研究拠点としての地位を確かなものとするために、2020年4月に宇宙環境技術ラボラトリーは革新的宇宙利用実証ラボラトリーに生まれ変わりました。
革新的宇宙利用実証ラボラトリーの目的は、超小型衛星を通じて、「宇宙の裾野」を拡大し、人類の宇宙活動の発展に貢献することにあります。そのために、以下の5項目を行います
- 情報・センサ・ネットワーク技術に根ざした宇宙利用技術のシーズを構築し、宇宙利用を行いたいという人達と連携する
- 新たな宇宙技術や宇宙利用のアイデアを実際の衛星を使って実証したいと思う人達に、宇宙実証のためのプラットホームを提供する
- 超小型衛星をより安価で低価格に開発できるよう、特に試験・検証の分野での技術開発を行う
- 自前の宇宙開発利用を行いたい途上国・新興国と連携し、水平型の国際協力により、国際共同ミッションを実施する
- 国際的な競争力をもつ先進的な超小型衛星技術を自前でもち、学術論文の発信のために、超小型衛星による宇宙空間観測・月惑星探査などの先進的ミッションを行う
これらの活動を、宇宙システム工学科のみならず他部局を含む学内の他学科の教員、国内外企業や学術研究機関と連携して実施していきます。
ラボラトリーの特徴
本ラボラトリーにおける研究の学術的な特徴は、アポロ計画に代表される従来型宇宙開発利用で育まれてきたシステム工学(どのような厳しい環境やどのように複雑であっても、確実に目的を達成できるシステムを作り、運用する)に対して、Lean Satellite (低価格・短納期で顧客やユーザーに衛星の作り出す価値を届けるために、リスクを許容しつつ無駄を最大限に排してシステムを作り、運用する)の概念という新たな側面を付け加えることにあります。Lean Satelliteの理論を構築する上で、実際に衛星を開発・運用するだけでなく、超小型衛星試験センターにおいて様々な衛星の試験を実施していく過程で得られる知見も組み合わせて研究を行っていきます。
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